研究人"
試料探索に回り道なし - 石井隆夫教授

 

――石井先生はどのような研究をされているのですか?

石井隆夫教授

X線回折法を用いて金属酸化物の結晶構造を調べ、それが電気的特性とどのように関係しているか研究しています。
 もう少し分かりやすく説明しますと、金属と酸素が結合したものを「金属酸化物」といいます。
 通常、電気の流れは物質中の電子が移動することで引き起こされますが、金属酸化物の中には、電子ではなく、電気を帯びた酸素イオンそのものが移動することで、電流を生じるものがあります。

 この電気の流れを引き起こす特殊な物質を「酸素イオン伝導体」と呼び、酸素イオンの移動により生じる電流に負荷をつないで電気エネルギーを継続的に取り出す装置を「燃料電池」と呼んでいます。

 現在、最も一般的な酸素イオン伝導体はジルコニア(ZrO2)で、これはジルコニウムと酸素が結合した金属酸化物です。

 ジルコニアは空気中で非常に安定な物質ですが、酸素イオンが十分速く動くためには1000℃の高温を必要とします。

 そこでもっと低温で酸素イオンが動ける酸素イオン伝導体は存在しないか探る研究を行っています。

 私の研究室では5年前より、バリウムとインジウムからなる酸素欠損ペロブスカイト酸化物を合成し、その電気的特性を調べています。

酸素イオン伝道メカニズム
ペロブカイト酸化物の結晶構造

 

――実際の研究はどのような手順で行われるのですか?

石井隆夫教授

まず、バリウムとインジウムと酸素の金属酸化物を合成します。
それぞれの成分比率を変えて、一回の焼成でいくつもの試料を作成します。
この試料作成にほぼ1週間費やしますが、すべてがうまく焼結するわけではありません。
割れてしまったり、焼結できなかったりして、いくつも合成実験に失敗が生まれます。これも実験の大切なプロセスです。
そこからバリウムとインジウムの比率を変えたり、別の元素を加えたりして、所望の結晶構造となる状態を探ります。
この試行プロセスを「材料探索」といいます。

実験を繰り返し続けていくことで、ジルコニア伝導体に変わる新たなイオン伝導体が発見できるのではないかと考え研究を進めています。
最近の成果として、インジウムの一部を鉄やコバルトのような金属に置き換えると酸素が面白い動きをすることが分かってきました。
目標としては、800℃くらいで動くイオン伝導体を見つけることが、この研究を行っている研究者の目標だと思います。

薬品を調合

研究室の一角で薬品を調合します。

 

薬品が保管されています

棚には様々な薬品が保管されています。

 

 

――学生はどのような形で実験を行っていますか?

石井隆夫教授

 2~3人でチームを組んで、金属酸化物の合成と、イオン伝導体のデータ収集を行っています。

 実験は手作業がほとんどで、いろいろな実験器具を使って、試料の合成とデータ収集を行っています。

 この実験は3年次までに学んだ電子材料の延長にある研究なので、最初のきっかけこそ教員が与えますが、研究を進めていくうちに学生が自発的に合成の比率を考え出し、作業を行っていくこともあります。

 自分の手足を動かして材料探索を行い、失敗を積み重ねて新たな知見を見出しながら、研究の方向性を探って行きます。

ゼミの発表

週一回、ゼミの発表が行われます。

 

学生への指導

学生への指導も熱が入ります。

 

 

Profile

石井隆夫教授

石井 隆生教授

1984年よりNTT電気通信研究所にて新材料の探索の研究を21年間行う。

主な材料はIII-VI族層状半導体単結晶、酸化物高温超伝導体単結晶、Scを含むジルコニア新イオン伝導体、GaN薄膜成長に使う基板用LiGaO2単結晶でした。

2006年より諏訪東京理科大学にて酸素欠損ペロブスカイト型の結晶構造を有する新酸素イオン伝導体の探索研究を行っている。

趣味は帆船模型作りですが多忙のため造船所は休業中